第00話-2

その事務所は古い地下鉄駅跡地を引き取って作られていた

古壁と平坦なデザイン、元々の駅事務所をすっぽり利用しているために、外見からは面白味は感じられない

以前から見慣れた人々にとって変わったのは、改装の際に追加されたシャッターと、地下への階段が今度は上・・2階への階段になったくらいである


土地の価格としてはここを買うのも悪くないが、地下鉄跡地などという場所に事務所を構えるのはよほどの電車マニアなのだろうか?

そんな事を考える住民も中にはいた。


実際には空き地を挟んで100メートルほど離れた場所にパン屋があるし、目の前は夏以外なら通りも多くはない2車線の車道だ

交通の面からも食料調達という面からも、この場所は決して悪いワケではないと理解できた


しかし問題となるのは、そこに住む住人達である

果たして、どのような面々が・・・?

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この事務所の一階はシャッターと階段だけしかない、なぜならシャッターの奥には少々無骨なデザインのトランスポーターがあるだけで

他にスペースの余裕がないからである

階段は2階に行くと短い廊下につながっていて、その左には本当の意味での事務所・・ちんまりとしたオフィスもどきがあった

もどきというのも、学校で教職員が使うような机が4つと、社長のものらしき少々大型の机が一つあるだけなのだ。

後は空いたスペースに来客のために無理して用意したソファーが二つ、テーブルが一つ

他にはここにいる人々の物とおぼしき荷物が乱雑に積まれているだけだった


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・・あー、いい天気だな


5月も半ばの暖かい陽射しが、社長机に座る青年にもぽかぽかと降り注いでいた

彼は身体に合っていないらしい小さな椅子にもたれかかって、真上の太陽を見上げている

オレンジ色の髪に、ラフな黒いシャツとジーパン。

ぼーっと半分開いた瞳は、実は何を見ているでもなく焦点も虚ろであった


「まぁぁぁすぅぅぅたぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」


「どわぁぁっ!?」


がっしゃぁぁぁぁん!!!


・・不意にした、事務所全体のガラスを割らんばかりの大声で彼は椅子ごとすっ転んでしまった


「ってってって・・・・な、なんだ!いきなり叫ぶなネスッ!!!」

青年は強打した後頭部をさすりながら、声の主に向かって叫び返した

「いばれる立場ですかっ!?・・昼間っからそんなボケっと青空眺めてて!!あなたは社長でしょう!?」


その声の主というのは、人間ではなかった

と言った所でも「彼」は青年・・「社長」にとっては社員という立場である

見慣れた・・そう、毎日のように顔を合わせている仲間なのだ

「彼」はロボットである、1メートルほどしか身長がない小さなロボット・・

顔がそのまま胴体になり、そこから腕と足が生えているような感じで、その「顔」にはテレビのモニターのような物が取り付けられていた

彼の目はそのモニターに表示されていて、時折ぱちくりと瞬きまでしている

名前はネクスト、本名は長く「インター・フェイス・ガン・ドロイド=ネクスト」

略して「ネス」というのが皆からの呼び名だった


「昼間ァ!?・・・・あ、ありゃ、もう12時・・??」

多少驚いたようだが、しかし青年はすぐにぼりぼりと頭をかいて


「ふん・・いーじゃねぇか、別に仕事があるでもなし・・」


また椅子によりかかり、バカにしたくなるようなフヌケた顔でぼーっと空を眺め始めた

ネスは怒りを溜めるように、ふるふると拳を振るわせ・・

思いっきり一声を放った


「ろぉぉぉぉでぇぇぇぇぇぇぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!!」


しかし今度は椅子から飛び起き、青年も叫びかえした!


「やぁっかましいわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」


・・かと思えば一通り声を上げたあと、二人ともがくん、と肩を落とした

全力で大声を上げたのだから、まぁこうなるか(ネスはなぜ?)

ネスの叫び通り、青年の名は「ロディ」。本名は「ローディス=スタンフォード」

19才にして社長・・というワリには社長らしからぬ男である

ネスが彼をマスターと呼ぶ理由は、「インターフェイス」と付くロボットは主人を登録しその命令で動く事に由来する

・・ま、たまに「ロディ」と呼び捨てにしてるけど・・


「・・頼むから、少しは真面目なトコ見せてくださいよ・・(泣)」

「・・しょーがねぇな・・」


ロディは椅子に座り直すと、机の上にあったメガネを手に取り、静かにかけた

フレームなしの四角レンズ。・・遠視か近視かと聞かれれば、別に目が悪いわけではないが・・

・・要するに「なーんとなく」でかけているのだ。

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